ジャズを始めてスタンダード曲を演奏しようとすると、しばしば名前が挙がるのがリアルブックですが、同じような表紙の本や異なる楽器向けの版が並んでいるため、初心者にはどれを選べばよいのか判断しにくいものです。
C版、B♭版、E♭版、低音部記号版という違いに加えて、Volume1から複数の続巻、小型版、デジタル版、国内で黒本と呼ばれる曲集まで存在するので、自分の楽器や参加するセッションの環境を確認せずに購入すると、楽譜をそのまま演奏できないことがあります。
リアルブックは、完成されたピアノ譜やバンドスコアではなく、主にメロディー、コードネーム、曲の構成を簡潔に記したリードシート集であり、演奏者が伴奏やアドリブを組み立てるための共通資料として使う本です。
ここでは、ジャズのリアルブックとは何かという基本から、最初に選びやすい版、移調楽器ごとの違い、黒本やアプリとの使い分け、セッションで困らない練習方法まで整理するので、単に本を買うだけで終わらず、実際の演奏に結び付けられるようになります。
ジャズのリアルブックは第6版Volume1が基本

初めて英語版のリアルブックを購入するなら、一般的な出発点はHal Leonardが出版しているThe Real Book Volume I Sixth Editionであり、その中から自分の楽器に対応する版を選ぶ方法がわかりやすいです。
公式のVolume1には400曲が収録され、All Blues、Autumn Leaves、Body and Soul、Footprints、Giant Steps、Misty、Stella by Starlight、Take Fiveなど、ジャズ学習やセッションで触れやすい曲が幅広く含まれています。
ただし、収録曲が多い本を所有すればすぐにセッションへ対応できるわけではないため、楽器に合う版を選び、音源を聴き、曲の形式やリズムを理解しながら使うことが重要です。
リアルブックの役割
リアルブックは、ジャズやポピュラー音楽の曲を演奏するために必要な情報を一枚前後のリードシートへまとめた曲集であり、メロディー譜の上にコードネームが書かれ、リピートやコーダなどを使って曲の構成が示されています。
クラシックの楽譜のように両手の音、強弱、細かな伴奏形、アーティキュレーションのすべてが指定されているわけではなく、ピアニストやギタリストはコードから伴奏を作り、ベーシストはルートや進行を読み、管楽器奏者はテーマとアドリブを担当します。
そのため、リアルブックは演奏を完成形のまま再現する本ではなく、複数の演奏者が曲名、キー、形式、ハーモニーについて共通認識を持つための地図に近い存在です。
同じリードシートを見ていても、スウィング、ボサノバ、バラード、ファンクなどのリズムやテンポによって演奏結果は大きく変わるので、紙面に書かれていない部分を音源や共演者とのやり取りから補う必要があります。
初心者は楽譜に正解がすべて書かれていると考えやすいのですが、余白を自分で埋めることこそジャズの特徴であり、リアルブックはその練習を始めるための基礎資料として役立ちます。
第6版が選びやすい理由
現在購入する英語版として第6版が選びやすい大きな理由は、出版社が楽曲の権利処理を行った正規版であり、かつて非公式に流通していた版の雰囲気を残しながら、読みやすさや記譜上の誤りが見直されているためです。
Hal Leonardの公式商品ページでは、Volume1のC版に400曲が収録され、B♭版、E♭版、低音部記号版も用意されていることが案内されています。
古い版を愛用している演奏者もいるため、現場によっては第5版以前のキーやコード進行が話題になることがありますが、これから一冊目を入手する人が入手経路の不明な古い複製物を探す積極的な理由はありません。
正規版は作曲家や権利者に配慮して出版されているだけでなく、目次や曲名から目的の曲を探しやすく、紙の本や公式デジタル版など、自分の利用環境に合わせた購入方法を選択できます。
ただし、第6版の記載も唯一絶対の演奏方法ではないので、有名録音とコードが異なるときは誤りだと決め付けず、採用しているアレンジ、録音年代、イントロやエンディングの違いまで確認する姿勢が必要です。
Volume1から始める理由
Volume1が一冊目に適しているのは、ジャズセッションで取り上げられやすいスタンダード、ブルース、ビバップ、モードジャズ、ボサノバなどを横断して学べるため、特定の作曲家や時代に偏らず基礎的なレパートリーを増やせるからです。
Volume2以降にも魅力的な曲は多数ありますが、続巻は一冊目で不足を感じた人が目的の収録曲を確認して追加する方が効率的であり、番号が大きいほど上級者向けになるという単純な関係ではありません。
購入前には公式の曲目検索や目次を使い、自分が練習したい曲、レッスンで指定された曲、参加予定のセッションでよく演奏される曲が実際に含まれているかを確認することが大切です。
たとえば、枯葉を練習したいという理由だけで曲集を選ぶのではなく、ブルース、循環進行、リズムチェンジ、マイナー曲、ボサノバ、バラードをそれぞれ数曲ずつ学べるかという視点を持つと、一冊を長く活用できます。
すでに国内のセッションで黒本を使っている場合は、曲目の重複だけでなく、キー、コード、構成の違いを比較する資料としてVolume1を追加すると、演奏の選択肢を広げやすくなります。
C版を選ぶ楽器
C版は、譜面に書かれたCの音を演奏したときに実音でもCが鳴る楽器を中心に使う版であり、ピアノ、キーボード、ギター、ヴァイオリン、フルートなどを演奏する人の基本的な選択肢になります。
ギターは実際の響きと記譜上のオクターブに違いがありますが、ジャズのリードシートを読む場面では通常C版を使用し、コードネームもコンサートキーのまま扱います。
ボーカリストも伴奏者と共有する基準資料としてC版を持つことがありますが、歌いやすいキーは人によって異なるため、掲載されている原調や一般的なセッションキーをそのまま歌えるとは限りません。
ボーカルで使用する場合は、楽譜のメロディーが自分の音域に収まるかを確認し、必要なら移調したリードシートを準備して、曲名だけでなく希望キー、テンポ、イントロ、エンディングを伴奏者へ伝えられるようにします。
ピアノやギターの初心者はC版を買えば伴奏が自動的にわかると考えがちですが、コードネームから押さえ方やボイシングを作る知識は別に必要なので、コード理論や伴奏法の教材と組み合わせると活用しやすくなります。
移調楽器用の版
トランペット、テナーサックス、アルトサックスなどの移調楽器は、譜面に書かれた音名と実際に鳴る音高が異なるため、原則として自分の楽器に対応したB♭版またはE♭版を選ぶと、その場で機械的な移調をせずに演奏できます。
B♭版は主にトランペット、コルネット、テナーサックス、ソプラノサックスなどで使われ、E♭版は主にアルトサックスやバリトンサックスなどで使われます。
| 版 | 主な対象 | 選ぶ際の要点 |
|---|---|---|
| C版 | ピアノ、ギター、フルート | 実音の基準譜 |
| B♭版 | トランペット、テナーサックス | B♭楽器向けに移調済み |
| E♭版 | アルトサックス、バリトンサックス | E♭楽器向けに移調済み |
| 低音部記号版 | ベース、トロンボーン | 低音部記号で読みやすい |
自分の楽器と同じ版を選んでも、バンド内でキーを確認するときはコンサートキーと移調譜上のキーを区別する必要があるため、リーダーがB♭の曲と言ったときに実音を指すのか、楽器上の調を指すのかを確認します。
複数の管楽器を持ち替える人や移調に慣れたい人はC版も役立ちますが、一冊目から難しい読み替えを課すより、まず対応版で曲を覚え、その後に実音との関係を学ぶ方が演奏へ集中しやすくなります。
低音部記号版の考え方
ウッドベース、エレクトリックベース、トロンボーンなど、低音部記号を日常的に読む演奏者にはBass Clef Editionが候補となり、メロディーを慣れた記号と音域で確認しやすくなります。
ベーシストはコードネームだけを見れば演奏できる場面も多いものの、テーマを把握しているとフレーズの切れ目、ハーモニーの着地点、アンサンブルで避けたい音域を理解しやすくなります。
また、イントロやインタールードに指定されたメロディーを担当したり、ベースでテーマを演奏したりする機会もあるため、コード進行だけを抜き出した資料よりリードシート全体を読める本の方が応用範囲は広がります。
低音部記号版を選んだ場合でも、ピアニストや管楽器奏者との会話ではコンサートキー、曲の小節数、AABAなどの形式を共通言語として使えるので、音名以外の情報を整理しておくことが大切です。
ベースラインの正解が書かれている本ではないため、ルート音だけを追う段階から、ガイドトーン、経過音、リズムの推進力を加える段階へ進むには、実際のベーシストの録音を聴いて模倣する練習が欠かせません。
正規版を選ぶ重要性
リアルブックの歴史を調べると、かつて権利処理を行わずに作られた版が音楽家の間で広まった経緯があり、現在も出所のわからないPDFやスキャンデータを見かけることがあります。
Berkleeの解説では、1970年代に学生がまとめた非公式のリードシート集が広まり、2004年にHal Leonardが権利を確保した正規シリーズを出版した経緯が紹介されています。
- 出版社と版の名称を確認する
- 公式販売店や正規流通品を選ぶ
- 無料PDFの出所を慎重に判断する
- 共有用コピーを安易に配布しない
- 必要な曲は正規楽譜を入手する
JASRACの案内でも、市販楽譜をコピーする場合や出版物へ楽譜を掲載する場合には著作権上の手続きが関係すると説明されているため、購入した一冊を練習に使うことと、複製して不特定の人へ配ることは分けて考える必要があります。
権利関係が不明なデータは、作者への還元が期待できないだけでなく、ページ欠落、誤記、画質不良、悪意のある配布サイトなどの問題もあるので、長く使う資料ほど正規版を選ぶ方が安心です。
リアルブックだけでは足りない部分
リアルブックにはメロディーとコード進行が載っていますが、名演のイントロ、エンディング、リズムセクションの細かな動き、アドリブの語法、曲ごとの歴史的な演奏習慣まで網羅されているわけではありません。
たとえば同じバラードでも、インテンポで演奏するのか、ルバートで始めるのか、途中からダブルタイムフィールへ移るのかによって必要な準備は変わりますが、その判断を一枚のリードシートだけから読み取ることは困難です。
コード進行についても、演奏者が代理コードを加えたり、ベース音を変えたり、特定の録音に合わせて小節単位で修正したりするため、本に書かれた形は出発点の一つとして捉える必要があります。
曲を覚えるときは、異なる年代や編成の録音を複数聴き、テーマを歌い、ベースの動きを追い、ドラマーがどこで区切りを示しているかを確認すると、紙面上の記号が実際の音楽として理解できるようになります。
最終的には本を見なくても形式とハーモニーを把握し、共演者の演奏へ反応できる状態が理想なので、リアルブックは暗記を避けるための道具ではなく、暗記と理解へ進むための足場として使います。
楽器と目的から版を選ぶ

リアルブック選びで最初に確認するべきなのは、表紙の色や価格ではなく、自分の楽器に対応する調、必要な収録曲、紙面の大きさ、利用する場所という四つの条件です。
同じVolume1でもC版とB♭版では記載される音名や調号が異なるため、安く販売されているという理由だけで選ぶと、毎曲を移調しなければならず、初心者の練習効率が大きく下がります。
セッションへ持参する人と自宅の譜面台で使う人では適したサイズも変わるので、購入前に日常の使い方を具体的に想像することが大切です。
楽器別の選び方
楽器別の版選びでは、楽器名だけで決めるのではなく、普段どの記譜を読んでいるか、実音で考える習慣があるか、複数の楽器を持ち替えるかまで考慮すると失敗を減らせます。
ピアノ、ギター、フルート、ヴァイオリンはC版、トランペットやテナーサックスはB♭版、アルトサックスやバリトンサックスはE♭版、ベースやトロンボーンは低音部記号版が基本的な目安です。
| 演奏者 | 第一候補 | 補助的な候補 |
|---|---|---|
| ピアノ | C版 | デジタル版 |
| ギター | C版 | 小型C版 |
| トランペット | B♭版 | C版 |
| アルトサックス | E♭版 | C版 |
| ベース | 低音部記号版 | C版 |
| ボーカル | C版 | 個別移調譜 |
補助的にC版を持つとコンサートキーを確認しやすくなりますが、移調の仕組みをまだ理解していない段階では対応版を先に使い、曲を止めずに読める状態を作る方が実践的です。
楽器の先生や参加するバンドから版を指定されている場合は、その環境で共有しやすいものを優先し、一般論だけで別の版を購入しないようにします。
収録曲から選ぶ
Volumeの選択では、冊数をそろえることより、今後半年ほどで練習する曲が十分に含まれているかを確認する方が重要であり、演奏予定のない曲が数百曲入っていても学習効果が自動的に高まるわけではありません。
レッスン、大学や音楽教室のアンサンブル、地域のジャムセッションでは選曲傾向が異なるため、先生、ホストミュージシャン、経験者へ頻出曲を尋ねると、自分の環境に合う曲集を判断しやすくなります。
- 練習予定の曲名
- セッションの頻出曲
- ブルースの収録数
- バラードの収録数
- ボサノバの収録数
- 希望する作曲家
- 自分が聴いている録音
曲名が同じでも、キー、形式、イントロ、エンディングが手元の録音と一致しない場合があるので、掲載の有無だけでなく、実際のページやサンプルを確認できるなら内容まで見ておきます。
一冊目では幅広い基本曲を選び、二冊目以降でモダンジャズ、ラテン、ボーカル曲、特定の時代など、自分が深めたい方向へ広げると、曲集が使われないまま増える状態を避けられます。
紙とデジタルを使い分ける
紙のリアルブックは譜面台へ置いたまま複数人で確認しやすく、端末の充電、通知、画面消灯、通信状態に左右されないため、リハーサルやセッションで安定して使えることが利点です。
一方でデジタル版は曲名検索、ブックマーク、持ち運び、暗い場所での閲覧に向き、数冊分の資料を一台へまとめたい演奏者には便利ですが、販売方式によっては閲覧時にインターネット接続が必要になります。
フルサイズ版は紙面が見やすく、自宅練習やピアノの譜面台に適しており、小型版は持ち運びやすい反面、細かな音符や臨時記号が読みにくく感じる人もいます。
購入前には、譜面台から顔までの距離、演奏中にページをめくれるか、照明が暗い会場で読めるか、書き込みをしたいかを確認すると、単純な携帯性だけで決めずに済みます。
実用性を重視するなら、自宅では見やすい紙版を使い、外出時には正規のデジタル資料や自作の練習メモを使うなど、用途ごとに役割を分ける方法もあります。
リアルブックを演奏力へつなげる

リアルブックを購入した後は、掲載曲を最初から順番に読むより、演奏機会の多い曲を少数選び、メロディー、形式、コード進行、伴奏、アドリブという順序で深く練習する方が成果につながります。
一曲を本当に演奏できる状態とは、音符を追えるだけではなく、テーマを歌え、曲のどこにいるかを見失わず、共演者が伴奏を変えても形式へ戻れる状態です。
本を閉じる練習も計画に入れ、最終的には耳と記憶を中心に演奏できることを目標にします。
一曲を覚える手順
一曲を覚えるときは、いきなりアドリブスケールを当てはめるのではなく、代表的な録音を聴き、テーマを声で歌い、曲の形式を数え、その後で楽器による演奏へ進むと全体像を失いにくくなります。
最初にキー、拍子、基本的なリズム、曲の長さ、AABAやABACなどの構成を紙へ簡潔に書き出し、どの部分が繰り返され、どの部分だけコードやメロディーが変化するかを確認します。
- 代表的な録音を聴く
- テーマを歌う
- 曲の形式を数える
- メロディーを演奏する
- ルート音を追う
- ガイドトーンを弾く
- 本を閉じて通す
コードを覚えるときは一小節ずつ独立した記号として暗記せず、ツーファイブワン、循環進行、平行調への移動、ターンアラウンドなどのまとまりを見つけると、別の曲にも応用できます。
最後に録音と一緒にテーマからアドリブ、テーマへ戻る流れを通し、自分の演奏を録音して、テンポ、音程、休符、形式のずれを確認すると、弾いている最中には気付かなかった弱点が見つかります。
コード進行を理解する
リアルブックに並ぶコードネームを読むときは、各コードで使えるスケールだけを考えるのではなく、そのコードが次の場所へどのように進み、調性の中でどの役割を持つかを確認することが重要です。
たとえばDm7、G7、Cmaj7という進行は三つの別々なコードではなく、Cメジャーへ解決するツーファイブワンとして捉えると、伴奏の声部進行やアドリブのフレーズを一つの流れとして作れます。
| 確認項目 | 見る内容 | 練習方法 |
|---|---|---|
| 調性 | 中心となるキー | 主音を歌う |
| 機能 | 解決と緊張 | ガイドトーンを弾く |
| まとまり | ツーファイブなど | 複数小節で暗記 |
| 転調 | 一時的な調の移動 | 着地点を確認 |
| 反復 | 同型の進行 | 共通形を比較 |
伴奏楽器は三度と七度を中心にボイシングを作り、ベースはルートの流れ、管楽器は解決音への動きを確認すると、同じコード進行を役割の異なる視点から理解できます。
記号を細かく分析しすぎてテンポの中で演奏できなくならないように、ゆっくり理解する時間と、止まらずに一曲を通す時間を分けて練習します。
セッション前に準備する
ジャムセッションでは、リアルブックを持っていることより、演奏したい曲を数曲決め、キー、テンポ、リズム、冒頭の合図、ソロの順番、終わり方を簡潔に伝えられることの方が重要です。
曲を提案する場合は、テーマを最後まで演奏できるだけでなく、自分が形式を数え、ソロの終わりを示し、テーマへ戻る場所を理解している状態で参加すると、共演者へ過度な負担をかけずに済みます。
ホストが使用している曲集と自分の本でコードや構成が異なることもあるため、演奏前に何版を基準にするかを確認し、重要な相違があれば短時間で共有します。
初心者は曲数を増やすより、ブルース一曲、ミディアムスウィング一曲、バラード一曲、ボサノバ一曲などを確実に準備すると、テンポや雰囲気の異なる場面へ対応しやすくなります。
演奏中に場所を見失ったときは音数を増やして取り戻そうとせず、休みながらベース、ドラムのフィル、メロディーの区切りを聴き、次の大きなセクションから戻る判断も必要です。
黒本やアプリと役割を分ける

日本でジャズのスタンダード曲集を探すと、英語版のリアルブックだけでなく、黒本の愛称で知られるジャズ・スタンダード・バイブルや、コード進行を表示して伴奏を再生できるiReal Proなども候補になります。
これらは完全な代用品ではなく、英語版の幅広い曲目、日本のセッションでの共有性、移調や反復練習のしやすさという異なる強みを持っています。
自分が参加する現場で使われている資料を優先しつつ、耳、紙のリードシート、伴奏アプリを組み合わせると、弱点を補いながら練習できます。
黒本との違い
黒本と呼ばれるジャズ・スタンダード・バイブルは、日本語で利用しやすいスタンダード曲集であり、国内のセッションや音楽教室で共通資料として指定されることがあるため、日本で演奏機会を増やしたい人には有力な選択肢です。
リットーミュージックの公式ページによると、ハンディ版には227曲が収録され、A5判のリング製本に加えて、テーマ演奏とマイナスワンを収めた付属音源が用意されています。
| 比較項目 | 英語版リアルブック | 黒本 |
|---|---|---|
| 主な強み | 国際的に参照されやすい | 国内で共有しやすい |
| 代表的な冊数 | 複数Volume | 1と2など |
| 表記 | 英語中心 | 日本語情報あり |
| 練習音源 | 商品により異なる | 付属版あり |
| 向く場面 | 幅広い曲の研究 | 国内セッション |
同じ曲が両方に収録されていても、採用するキー、コードネーム、リピート、エンディングが一致するとは限らないため、どちらが正しいかという対立ではなく、現場でどの形を演奏するかを確認する資料として比較します。
国内のセッション参加が主目的なら黒本を先に選び、海外教材の学習や幅広い曲目の研究も行いたいなら英語版を追加するという順序も現実的です。
iReal Proとの違い
iReal Proはコード進行を表示し、テンポ、キー、リズムスタイル、編成などを調整しながら伴奏を再生できる練習アプリであり、一人でも繰り返し演奏しやすい点が紙の曲集との大きな違いです。
iReal Proの公式サイトでは、指定小節のループ、自動的なテンポアップ、自動移調、伴奏パートの調整など、反復練習を支える機能が紹介されています。
- キーを変更しやすい
- テンポを段階的に上げられる
- 小節を限定して反復できる
- リズムスタイルを選べる
- 伴奏パートを調整できる
- 自作進行を入力できる
一方で、コード進行の再生に頼りすぎると、毎回同じ伴奏へ機械的にフレーズを当てる練習になり、実際のドラマーやベーシストが生み出す揺れ、反応、ダイナミクスへ対応しにくくなる場合があります。
リアルブックでメロディーと構成を確認し、録音で曲の語法を学び、iReal Proでテンポやキーを変えて反復するという役割分担にすると、アプリだけでも本だけでも不足する部分を補えます。
耳で学ぶ時間を残す
どの曲集やアプリを使う場合でも、最終的な演奏力を高めるには、譜面を見ないで録音からメロディー、リズム、ベースライン、フレーズを聴き取る時間を残す必要があります。
譜面を先に見ると効率よく音を確認できますが、記譜された音符を均等に演奏しやすくなり、ジャズ特有のタイム感、音の長さ、アクセント、後ろへ引っ張る感覚などを見落とすことがあります。
最初から一曲すべてを耳コピーするのが難しい場合は、テーマの最初の四小節、特徴的なリズム、ツーファイブワン上の短いフレーズなど、範囲を限定すると継続しやすくなります。
聞き取った内容をリアルブックと比較し、違いがあれば録音のアレンジなのか、演奏者の変化なのか、譜面上の簡略化なのかを考えることで、楽譜を受け身で読む状態から離れられます。
本、アプリ、録音の三つを競わせるのではなく、本で全体を確認し、アプリで反復し、録音で音楽的なニュアンスを学ぶという循環を作ることが、最も実践的な使い方です。
購入後に起こりやすい失敗を避ける

リアルブックを買っても上達を実感できない人には、曲数を追いすぎる、コードだけを見る、掲載内容を絶対視する、本を開いたまま暗記しないという共通した失敗が見られます。
曲集は情報量が多いため、ページをめくるだけでも学習した気分になりやすいのですが、演奏できるレパートリーを増やすには、一曲ごとに到達基準を決める必要があります。
失敗の原因を先に把握し、少ない曲を深く学ぶ仕組みを作ると、分厚い本を実際の演奏資産へ変えられます。
曲数を増やしすぎない
購入直後に目次から有名曲を次々と試すと、テーマを一度読んだだけの曲が増え、どの曲も形式やコード進行を覚えていない状態になりやすいため、同時に取り組む曲数を絞る必要があります。
一曲について、テーマを演奏できる、コードのルートを追える、形式を説明できる、伴奏またはアドリブを一コーラス続けられる、本を閉じて演奏できるという段階を設定すると、進歩を判断しやすくなります。
- テーマを歌える
- キーを答えられる
- 形式を説明できる
- ルートを演奏できる
- 一コーラス通せる
- テーマへ戻れる
- 本を閉じて演奏できる
一週間で一曲を完璧にする必要はありませんが、新しい曲を増やす日と、過去に覚えた曲を復習する日を分けないと、時間の経過とともにレパートリーが減っていきます。
月末に本を見ずに演奏できる曲を録音し、翌月も維持できているか確認する方法を取り入れると、読譜した曲数ではなく、実際に使える曲数を増やせます。
譜面を絶対視しない
リアルブックは便利な共通資料ですが、演奏されてきたすべてのバージョンを一つの譜面へ統合したものではないため、掲載されたコード、キー、メロディー、形式を唯一の正解として扱うのは適切ではありません。
同じ曲でも歌手の音域に合わせて移調されるほか、イントロの追加、間奏の挿入、拍子の変更、リハーモナイズ、ラテンからスウィングへの切り替えなど、多数の演奏方法があります。
| 違いが出る場所 | 考えられる理由 | 対応 |
|---|---|---|
| キー | 歌手や楽器の音域 | 演奏前に確認 |
| コード | 代理コード | 着地点を共有 |
| メロディー | 版や録音の差 | 音源と比較 |
| 構成 | アレンジ | 小節数を確認 |
| リズム | 演奏スタイル | カウント前に指定 |
相違を見つけたときは相手の譜面が間違っていると断定せず、どの録音や版を基準にしているかを尋ね、演奏する場で一つの形へそろえることがアンサンブルでは重要です。
複数の形を知った上で選べる状態が望ましいので、自分の本へ修正を書き込む場合も、元の記載を消さず、録音名や使用するバンド名と一緒にメモすると後から混乱しにくくなります。
本を閉じる練習をする
常に譜面を見ながら演奏していると、視線がページへ固定され、ドラマーの合図、ベースの変化、他のソリストのフレーズへ注意を向けにくくなるため、練習の後半には本を閉じる時間を設けます。
暗記はコードネームを順番に唱える作業ではなく、メロディーの流れ、形式、調性、特徴的な進行、解決地点を関連付け、曲全体を頭の中で再生できる状態を目指すものです。
最初は一曲を四小節や八小節に分け、譜面を見て確認した後に閉じて演奏し、間違えた場所だけを再確認すると、最初から最後まで何度も読み直すより効率よく記憶できます。
伴奏者はメロディーを歌いながらコードを弾き、管楽器奏者はルート音を歌いながらテーマを吹くなど、自分の担当以外の要素を同時に意識すると、形式を見失いにくくなります。
本を閉じて不安定になる箇所は理解が浅い場所を示しているので、失敗を避けて譜面へ戻り続けるのではなく、弱点を発見するための確認方法として暗譜演奏を取り入れます。
自分の現場に合う一冊を練習の起点にする
初めて英語版のリアルブックを選ぶ場合は、The Real Book Volume I Sixth Editionを基本にし、ピアノやギターならC版、トランペットやテナーサックスならB♭版、アルトサックスならE♭版、ベースやトロンボーンなら低音部記号版を候補にすると判断しやすくなります。
ただし、日本国内のジャムセッションや音楽教室では黒本が共通資料として使われることも多いため、参加する場所で採用されている曲集を確認し、必要なら英語版と黒本を役割別に使い分ける方が実用的です。
リアルブックは完成された演奏をそのまま再現する本ではなく、メロディー、コード、形式を共有するためのリードシート集なので、録音を聴くこと、曲を歌うこと、コードの機能を理解すること、本を閉じて演奏することまで含めて練習します。
曲数の多さに圧倒されたときは、ブルース、スウィング、バラード、ボサノバなどから一曲ずつ選び、テーマ、ルート、ガイドトーン、伴奏またはアドリブ、暗譜という順序で仕上げると、少ない曲からでもセッションに必要な対応力を育てられます。
正規に出版された本を選び、掲載内容を絶対視せず、共演者とキーや構成を確認しながら使えば、リアルブックは単なる分厚い曲集ではなく、耳、理論、アンサンブル、レパートリーを結び付ける長期的な学習資料になります。


