チック・コリアの最高傑作を一枚だけ選ぼうとすると、ピアノトリオの革新性を示した作品、エレクトリックジャズの爽快感を味わえる作品、緻密なジャズロック、ラテン音楽への愛情を反映した作品など、異なる魅力を持つ候補が次々に浮かびます。
代表曲の「Spain」を聴きたい人と、即興演奏におけるピアノの応答力を堪能したい人では最適なアルバムが異なるため、知名度や売上だけで最高傑作を決めるよりも、自分が聴きたい音楽の方向から候補を絞るほうが満足しやすくなります。
本記事では、チック・コリア名義のアルバムだけでなく、リターン・トゥ・フォーエヴァーやゲイリー・バートンとの共演作も含め、作品の完成度、後世への影響、楽曲の親しみやすさ、演奏の充実度という視点から有力な名盤を取り上げます。
ジャズを聴き始めたばかりの人でも違いを判断できるように、各作品の音色、編成、聴きどころ、向いている人、最初に聴く曲、購入時の注意点まで整理しているため、評価の高い作品を並べて眺めるだけでなく、自分にとっての最高傑作を見つける道筋がわかります。
チック・コリアの最高傑作候補9選

最初の一枚を迷っているなら、総合的な入口としては『Return to Forever』、アコースティックジャズを重視するなら『Now He Sings, Now He Sobs』、技巧的なジャズロックを聴きたいなら『Romantic Warrior』が有力です。
ただし、チック・コリアは同じスタイルを繰り返す音楽家ではなく、ピアノトリオ、デュオ、ソロピアノ、歌入りのラテンフュージョン、大編成に近い構築的な音楽まで手がけているため、一枚の基準ですべてを代表させるのは難しい人物です。
ここでは最高傑作として名前が挙がりやすい九作品を、どのような魅力があるのか、どのような聴き手に適しているのかという観点から紹介します。
『Return to Forever』
一枚だけ選ぶ必要があり、チック・コリアらしい旋律、エレクトリックピアノ、ラテン系のリズム、即興演奏、透明感のある音像をまとめて味わいたいなら、最も有力なのが『Return to Forever』です。
スタンリー・クラークのベース、ジョー・ファレルのフルートとサックス、アイアート・モレイラの打楽器、フローラ・プリムの歌声が加わり、電気楽器を使いながらも硬質なジャズロックには寄りすぎない、海風のように開放的なサウンドを作っています。
表題曲から「Crystal Silence」「What Game Shall We Play Today?」「Sometime Ago/La Fiesta」へ続く流れには、静けさ、躍動、歌心、祝祭性が共存しており、作曲家としての才能とバンドリーダーとしての構想力を一度に確認できます。
穏やかな音楽だと思って聴き流すとリズムや和声の細かな変化を見落としやすいため、最初は全体の心地よさを味わい、二度目以降にベースや打楽器の動きを追うと、優美な表面の下にある緻密さが見えてきます。
『Now He Sings, Now He Sobs』
アコースティックピアノを弾くチック・コリアの最高到達点を探している人には、ミロスラフ・ヴィトウスとロイ・ヘインズを迎えて一九六八年に録音された『Now He Sings, Now He Sobs』が第一候補になります。
ピアノが主役として旋律を提示し、ベースとドラムが伴奏する従来型の関係に収まらず、三人が同じ瞬間に判断しながら音楽の方向を変えていくため、整った演奏というより生き物のように動くアンサンブルを体験できます。
特に「Matrix」では、短い主題を足場にしながらピアノの鋭いフレーズ、ベースの大胆な移動、ドラムの柔軟なアクセントが連鎖し、後年まで続くチック・コリアのリズム感覚と即興語法が早い段階ですでに確立されていたことがわかります。
旋律の親しみやすさだけを求めると緊張感の強い場面が難しく感じられますが、三人のうち一人の音を追い続けてから聴き直すと、互いの提案に即座に反応する会話の面白さが明確になります。
『Light as a Feather』
代表曲「Spain」を収録した親しみやすい作品から入りたいなら、初期リターン・トゥ・フォーエヴァーの二作目にあたる『Light as a Feather』が聴きやすさと内容の深さを両立しています。
フローラ・プリムの軽やかな歌声、ジョー・ファレルのフルート、スタンリー・クラークのしなやかなベース、アイアート・モレイラの細密な打楽器が一体となり、ブラジル音楽の柔らかさとジャズの即興性を自然に結び付けています。
ロドリーゴの「アランフェス協奏曲」を想起させる導入から始まる「Spain」は、印象的な主題だけでなく、複雑なコード進行の上を演奏者が鮮やかに走り抜ける展開に価値があり、作曲と即興が互いを高めるチック・コリアの美学を象徴しています。
有名曲だけを再生して終えるとアルバムの統一感を十分に味わえないため、「You’re Everything」から順番に聴き、歌、フルート、エレクトリックピアノが作る明るい空気の中で「Spain」がどのような頂点として配置されているかを確かめるのがおすすめです。
『Romantic Warrior』
速いユニゾン、複雑な拍子、シンセサイザーとエレクトリックギターの応酬が好きな人には、リターン・トゥ・フォーエヴァーの黄金期を代表する一九七六年作『Romantic Warrior』が最高傑作候補になります。
チック・コリア、アル・ディ・メオラ、スタンリー・クラーク、レニー・ホワイトという四人が高度な技術を競いながらも、単なる速弾きの集合にはならず、中世物語を思わせる主題や劇的な構成によって一枚の作品として強い統一感を生み出しています。
「Medieval Overture」の目まぐるしい展開や、長尺曲「Duel of the Jester and the Tyrant」におけるキーボードとギターの緊張感は、プログレッシブロックの愛好家にも入りやすく、ジャズの即興演奏へ関心を広げる入口にもなります。
音数の多さや演奏速度だけに注目すると楽曲の設計が見えにくくなるため、最初はテーマが戻ってくる位置を意識し、二度目に各奏者のソロを追うと、技巧を物語の展開に変えるバンドの完成度を理解できます。
『My Spanish Heart』
ラテン音楽やスペイン風の旋律を中心に、チック・コリアの作曲世界を大きなスケールで味わいたいなら、一九七六年の『My Spanish Heart』が外せません。
アコースティックピアノとシンセサイザーに加え、弦楽器、ブラス、歌声、打楽器を組み合わせた色彩豊かな録音であり、「Armando’s Rhumba」や組曲「Spanish Fantasy」では、ラテン系のリズムとクラシック音楽的な構築性が一つの作品内で共存しています。
明快な旋律を持つ短い曲から、場面が連続的に切り替わる組曲まで収録されているため、名曲集としても長編作品としても楽しめ、演奏家だけでなく作編曲家としてのチック・コリアを理解するうえで重要な一枚です。
収録時間が長く音色の変化も多いため、最初から全体を分析しようとせず、「Love Castle」「Armando’s Rhumba」「Spanish Fantasy」の順に聴き、気に入った音楽的要素を手掛かりに残りの曲へ進むと入りやすくなります。
『Crystal Silence』
静かな音楽の中にある緊密な即興を聴きたい人には、チック・コリアのピアノとゲイリー・バートンのヴィブラフォンだけで作られた『Crystal Silence』が適しています。
和音を奏でられる楽器同士のデュオは音が重なりすぎる危険がありますが、二人は旋律、伴奏、リズムの役割を固定せずに交換し、余白を保ちながら小さなオーケストラのような広がりを作っています。
表題曲の透明な響きに加え、「Señor Mouse」の俊敏な受け渡しや「La Fiesta」の躍動感も収められており、穏やかな室内楽風のジャズと刺激的な即興演奏が対立せずに同居している点が大きな魅力です。
音量の小さな部分を環境音の多い場所で聴くと繊細な残響や間の表現が伝わりにくいため、ヘッドホンか落ち着いた室内で再生し、ピアノの一音にヴィブラフォンがどのような形で返答するかを追うと理解が深まります。
『The Leprechaun』
幻想的な物語を思わせる音楽や、アコースティック楽器と電子楽器を組み合わせた精巧な編曲に興味があるなら、一九七六年の『The Leprechaun』が有力です。
「Nite Sprite」の鋭いリズムと緻密なアンサンブル、「Leprechaun’s Dream」の長い構成、ゲイル・モランの浮遊感のある歌声などが配置され、アルバム全体が一冊の幻想物語のように進行します。
リターン・トゥ・フォーエヴァーの力強い演奏とは異なり、個々の楽器の技巧を前面に出すだけでなく、短い主題や音色の変化を組み合わせて架空の情景を作るため、作曲家としての遊び心と設計力がよく表れています。
明快なスタンダードジャズを期待すると展開の多さに戸惑う可能性がありますが、曲名から場面を想像しながら通して聴くと、散漫に見えた要素が物語性によって結び付いていることに気付きます。
『Three Quartets』
力強いモダンジャズと長編作曲を同時に味わいたいなら、マイケル・ブレッカー、エディ・ゴメス、スティーヴ・ガッドと録音した『Three Quartets』が高い満足感を与えます。
四人の演奏には鋭いスピード感がありますが、各曲は自由なセッションではなく細部まで考えられた組曲として構成され、テーマ、ソロ、アンサンブルが劇的な起伏を作りながら進みます。
特にマイケル・ブレッカーのテナーサックスとチック・コリアのピアノが互いを押し上げる場面には強烈な熱量があり、スティーヴ・ガッドとエディ・ゴメスのリズム隊が複雑な展開を明快な推進力へ変えています。
穏やかな初期リターン・トゥ・フォーエヴァーから入った人には硬派に感じられますが、テーマ部分を覚えてからソロへ進むと、自由に聞こえる即興が楽曲全体の構造と密接に結び付いていることがわかります。
『Children’s Songs』
チック・コリアの旋律感覚を装飾の少ない形で聴きたい人や、ジャズと現代クラシック音楽の境界に興味がある人には、主にソロピアノで演奏された『Children’s Songs』が向いています。
短い楽曲が番号順に並び、子どもの素朴な発想を思わせる明るさを持ちながら、拍子、音域、和声、左右の手の独立した動きには高度な工夫が施されているため、簡潔さと奥深さを同時に感じられます。
大編成のフュージョン作品と比べると音の規模は小さいものの、旋律を一つ置くだけで情景や感情を立ち上げる能力が直接伝わり、ピアノを学んでいる人にとってはタッチや間の取り方を観察する教材にもなります。
一曲が短いので作業用の小品集として流すこともできますが、数曲ずつ区切ってリズムや調性の変化を比べると、単純な曲を並べたのではなく、全体が緩やかな連作として設計されていることを発見できます。
好みに合う一枚を選ぶ視点

評価の高さだけを基準にすると、自分が求めていた音色と異なる作品を選び、名盤と呼ばれる理由を実感できないまま聴くのをやめてしまうことがあります。
チック・コリアの作品は年代による変化だけでなく、アコースティックかエレクトリックか、少人数か大編成か、即興中心か作曲中心かによって聴き心地が大きく異なります。
最初の一枚を決めるときは、専門的なジャンル名を覚えるよりも、好きな音色、聴きたい編成、すでに知っている曲という三つの手掛かりを使うと候補を現実的に絞れます。
音色から絞る
最も簡単な選び方は、ピアノ本来の響きを聴きたいのか、エレクトリックピアノやシンセサイザーを含む鮮やかな音を聴きたいのかを先に決めることです。
アコースティック作品では鍵盤への触れ方、音の減衰、演奏者同士の間が伝わりやすく、エレクトリック作品では長く伸びる音や多彩な音色を利用した構築的なアンサンブルを楽しめます。
- 生ピアノの即興なら『Now He Sings, Now He Sobs』
- 透明なデュオなら『Crystal Silence』
- 温かな電気ピアノなら『Return to Forever』
- 鋭いシンセサイザーなら『Romantic Warrior』
- 多彩な編曲なら『My Spanish Heart』
どちらが優れているという違いではなく、同じ作曲家が楽器の性格に応じてフレーズや編曲を変えているため、最初に好みの音色を選び、後から対照的な作品を聴くと表現の幅を理解しやすくなります。
編成から判断する
演奏者の人数は音楽の密度だけでなく、即興の進み方や一人あたりの役割にも影響するため、自分が音楽のどこに注目したいかを考える有効な基準になります。
少人数編成では一音ごとの反応を追いやすく、大人数の編成では複数の音色が重なることで生まれる物語性や壮大な展開を楽しみやすくなります。
| 編成 | 代表作 | 主な魅力 |
|---|---|---|
| ソロ | Children’s Songs | 旋律とタッチ |
| デュオ | Crystal Silence | 繊細な応答 |
| トリオ | Now He Sings, Now He Sobs | 即興の会話 |
| カルテット | Three Quartets | 熱量と構成 |
| バンド | Return to Forever | 色彩と躍動 |
ジャズの各楽器を聞き分けることに慣れていない人はソロかデュオから始めると理解しやすい一方、ロックや映画音楽のような厚い音に慣れている人はバンド作品から入るほうが魅力を感じやすくなります。
人数が少ない作品ほど内容が簡単とは限らず、むしろ演奏者の細かな判断が露出するため、静かな録音を選ぶ場合も集中して聴く時間を確保することが大切です。
代表曲を入口にする
アルバム単位で選ぶのが難しい場合は、気に入った代表曲を一曲見つけ、その曲が収録された作品から聴き始める方法が現実的です。
明るく躍動的な「Spain」が好きなら『Light as a Feather』、祝祭的な「La Fiesta」が好きなら『Return to Forever』、静かな「Crystal Silence」が好きなら同名のデュオ作品が自然な入口になります。
同じ曲が異なる編成や年代で何度も演奏されている点もチック・コリア作品の特徴であり、原曲に近い録音を聴いた後でライブ版や再演版へ進むと、決められた部分と即興によって変化する部分を比較できます。
ベスト盤だけで満足すると前後の曲が作る流れやアルバム固有の音像を見落としやすいため、好きな曲を見つけたら収録アルバムを最初から最後まで聴き、曲が置かれた文脈まで味わうことが重要です。
初心者が迷わない聴き進め方

膨大なディスコグラフィーを発表年代の順番だけで追うと、フリージャズ、フュージョン、ソロ、デュオ、大編成が次々に現れ、作風の変化を整理できなくなる可能性があります。
最初は代表的な三方向から一枚ずつ選び、その後で気に入った方向の前後作品へ広げると、すべてを網羅しなくてもチック・コリアの主要な魅力をつかめます。
聴き慣れない作品を無理に評価しようとせず、旋律、リズム、音色、演奏者同士の会話という順に注目点を増やすことが、長く楽しむための近道です。
入口の三枚を決める
初心者は最高傑作を最初から一枚に確定するよりも、性格の異なる三枚を試し、自分がどの要素に反応するかを確かめるほうが判断を誤りにくくなります。
初期リターン・トゥ・フォーエヴァー、アコースティックトリオ、電気楽器中心のカルテットを一枚ずつ聴けば、主要な作風を短期間で比較できます。
- 親しみやすさは『Return to Forever』
- 即興の深さは『Now He Sings, Now He Sobs』
- 演奏の迫力は『Romantic Warrior』
- 各作品を二回ずつ再生
- 気に入った曲名を記録
一度目は作業をせず全体の印象を受け取り、二度目は好きな楽器を一つだけ追うと、専門知識がなくても三作品の違いが明確になります。
三枚のうち一枚が合わなくてもチック・コリア自体が自分に合わないとは限らず、別の編成では印象が大きく変わるため、少なくとも対照的な二方向を試してから判断することが大切です。
聴く順番を組み立てる
年代順は音楽家の変化を理解する方法として有効ですが、初心者には難度の高い作品が早い段階で現れるため、聴きやすさと作風のつながりを重視した順番が適しています。
旋律の親しみやすい作品から始め、次に演奏者同士の会話が明確な作品へ進み、最後に構成の複雑な作品へ移ると、耳が段階的に慣れていきます。
| 段階 | 作品 | 注目点 |
|---|---|---|
| 第一段階 | Light as a Feather | 旋律と歌声 |
| 第二段階 | Return to Forever | 音色とリズム |
| 第三段階 | Crystal Silence | 二人の応答 |
| 第四段階 | Now He Sings, Now He Sobs | 三人の即興 |
| 第五段階 | Romantic Warrior | 複雑な構成 |
| 第六段階 | Three Quartets | 作曲と熱量 |
この順番は優劣を示すものではなく、聴き手が情報量の多い演奏へ無理なく進むための一例なので、途中で強く気に入った作品があれば、その周辺のアルバムを先に掘り下げても問題ありません。
一日に何枚も続けて聴くより、一枚ごとに印象的な曲や楽器を記録し、翌日に同じ作品を再生したほうが、初回には気付かなかった構成や応答を発見しやすくなります。
難しいと感じたら戻る
複雑な拍子や長い即興演奏が続く作品を難しいと感じたときは、理解力が足りないと考える必要はなく、注目する情報が多すぎて耳が整理できていない場合がほとんどです。
すべての楽器を同時に把握しようとせず、最初は主題が演奏される部分だけを覚え、次にピアノ、ベース、ドラムというように一つずつ対象を変えると音楽の構造が見えます。
『Romantic Warrior』が忙しく感じられるなら『Return to Forever』へ戻り、『Now He Sings, Now He Sobs』の即興が捉えにくいなら『Crystal Silence』で二人の応答を聴くなど、情報量の少ない編成を橋渡しにすると効果的です。
名盤を一度で理解する必要はなく、好きな旋律が一つ見つかっただけでも十分な入口になるため、評価を急ぐよりも数週間後に再び聴き、印象が変わる過程そのものを楽しむ姿勢が向いています。
録音編成から魅力を深掘りする

チック・コリアの作品を深く味わうには、ピアノの速さや作曲された旋律だけでなく、共演者との関係によって演奏方法がどのように変化するかを聴くことが重要です。
同じ人物が演奏していても、トリオでは短い合図に反応し、電気楽器のバンドでは厚い音の中で方向を示し、ラテン系の編成では打楽器が生み出す複数のリズムと対話します。
編成ごとの役割を意識すると、作品の違いが単なるジャンル変更ではなく、共演者と新しい会話を始めるための選択だったことが見えてきます。
ピアノトリオの会話を聴く
ピアノトリオでは、右手の速いフレーズだけに集中せず、左手の和音、ベースの移動、ドラムが置くアクセントの関係を追うと、三人が同時に曲を作る様子を理解できます。
チック・コリアは一定の伴奏型を維持するだけでなく、共演者の一音をきっかけに音域、リズム、音量を瞬時に変えるため、同じ曲でもメンバーによって性格が変化します。
| 作品 | ベース | ドラム | 特徴 |
|---|---|---|---|
| Now He Sings, Now He Sobs | ミロスラフ・ヴィトウス | ロイ・ヘインズ | 俊敏で開放的 |
| Akoustic Band | ジョン・パティトゥッチ | デイヴ・ウェックル | 精密で明快 |
| Trilogy | クリスチャン・マクブライド | ブライアン・ブレイド | 柔軟で現代的 |
三組を比較すると、チック・コリアの個性が常に同じフレーズとして現れるのではなく、共演者の音を引き出しながら全体の方向を整える能力として表れていることがわかります。
最初はピアノだけを追い、二回目はベース、三回目はドラムに注目してから全体を聴くと、伴奏に見えた音が次の展開を提案している場面を発見できます。
エレクトリック期の推進力を追う
リターン・トゥ・フォーエヴァーの電気楽器中心の作品では、速いソロだけでなく、複数の楽器が同じ旋律を同時に演奏するユニゾンと、リズムの切り替えが生む推進力に注目することが重要です。
シンセサイザー、エレクトリックギター、エレクトリックベースは音を長く伸ばせるため、アコースティック編成より厚い和音や鋭い輪郭を作りやすく、ロックに近い迫力とジャズの即興を両立できます。
- 主題のユニゾンを覚える
- 拍子が変わる位置を探す
- ベースの反復を追う
- ソロ後の主題回帰を待つ
- 音色の切り替えを比べる
最初から変拍子を数える必要はなく、身体で感じるリズムが切り替わった場所だけを意識すれば、複雑な構成の中にも明確な区切りがあることを理解できます。
技巧の競争として聴くと長時間の演奏に疲れやすいため、各奏者が前のソロからどの要素を受け取り、自分の演奏へ発展させているかを探すと、バンド全体の物語が見えてきます。
ラテン色の設計を味わう
チック・コリアのラテン色は、旋律にスペイン風の装飾を加えるだけではなく、クラーベを思わせるリズム、打楽器の重なり、短いフレーズの反復、強弱の劇的な変化を組み合わせて生まれています。
『Light as a Feather』ではブラジル音楽に近い軽やかさ、『My Spanish Heart』ではスペインやラテン文化を想起させる壮大な作曲、『Return to Forever』ではジャズの即興と祝祭的なリズムの融合が前面に出ます。
打楽器を単なる背景として扱わず、ピアノのフレーズに返答する独立した声として聴くと、旋律が同じ場所を繰り返していても、アクセントの変化によって音楽が前へ進んでいることがわかります。
地域ごとの伝統音楽を厳密に再現した作品ではなく、チック・コリア自身の作曲語法を通して複数の影響を再構成した音楽なので、特定の様式名だけで分類せず、リズムと音色の関係を楽しむ聴き方が適しています。
購入前に知りたい版の違い

名盤として長く聴き継がれている作品には、初回盤、再発盤、リマスター盤、ボーナストラック付きの拡張版、複数作品をまとめたボックスなどが存在します。
収録曲が同じでも音量、音の輪郭、残響、ジャケット、解説、価格が異なるため、最も高価な版や最も新しい版がすべての人に最適とは限りません。
初めて聴く段階では入手しやすさを優先し、作品を気に入ってから音質や資料性を重視した版へ買い替えると、出費を抑えながら自分に必要な仕様を判断できます。
版の違いを見分ける
購入前にはアルバム名だけで判断せず、発売元、発売年、収録曲数、ディスク枚数、リマスター表記、ボーナストラックの有無を確認する必要があります。
特に『Now He Sings, Now He Sobs』のように再発時に追加曲を収録した版がある作品は、オリジナル盤の構成を味わいたいのか、関連セッションをまとめて聴きたいのかによって適切な商品が変わります。
| 種類 | 利点 | 注意点 |
|---|---|---|
| 通常再発盤 | 安価で入手しやすい | 解説が簡素な場合あり |
| リマスター盤 | 音の輪郭が明瞭 | 音圧の好みが分かれる |
| 拡張版 | 追加曲を楽しめる | 本編の流れが変わる |
| ボックス | 関連作をまとめて収録 | 初期費用が高い |
| アナログ盤 | 大きな装丁を楽しめる | 再生環境が必要 |
音質の評価は再生機器や好みに左右されるため、リマスターという言葉だけで優劣を決めず、収録内容と価格を先に確認するほうが失敗を減らせます。
作品そのものを知ることが目的なら一般的なCDや正規配信で十分であり、初回盤や希少盤は音楽を気に入った後に資料や所有物としての価値を検討するのが安全です。
配信で試す手順
初めてチック・コリアを聴く人は、購入前に定額配信サービスなどで候補を試し、最後まで聴きたいと思える作品を確認すると無駄な出費を抑えられます。
短い試聴だけでは静かな導入や長い展開を持つ曲の魅力が伝わりにくいため、一曲の冒頭だけを次々に比較するよりも、代表曲を一曲通して聴く方法が適しています。
- 候補を三作品に絞る
- 各作品の代表曲を一曲聴く
- 気に入った作品を全曲再生
- 翌日に同じ作品を再生
- 購入候補を一枚決める
配信では再発盤とオリジナル盤が同じ画面に表示されることがあるため、曲数や発売情報を確認し、意図せずボーナストラック入りの版だけを聴いていないか注意が必要です。
気に入った作品はCDやレコードで所有すると解説やジャケットを含めて楽しめますが、配信だけでも演奏の価値は十分に味わえるため、再生環境と予算に合わせて選んで問題ありません。
中古盤の失敗を避ける
中古CDや中古レコードを購入するときは、価格の安さだけでなく、盤面の状態、付属品、規格番号、収録曲、返品条件を確認することが重要です。
同じジャケットでも国や年代によってマスターや曲順が異なる場合があり、帯や解説書を重視する人は、商品写真と説明文に付属品が明記されているかを確かめる必要があります。
アナログ盤では目立つ傷だけでなく反りやノイズの程度が再生に影響し、CDでも深い傷、曇り、ケースの破損、ブックレットの欠落があるため、状態表記が曖昧な商品は販売者へ確認したほうが安全です。
最初の一枚を聴く目的なら希少な初回盤にこだわる必要はなく、状態のよい一般的な再発盤を選び、作品を気に入ってから別マスターや異なる装丁を比較する順番が失敗を防ぎます。
最高傑作は一枚に絞らず入口から選ぶ
チック・コリアの最高傑作を総合力で選ぶなら、旋律の美しさ、ラテン系の躍動、エレクトリックピアノの温かな音色、優れた共演者の演奏を一度に味わえる『Return to Forever』が最も幅広い人に勧めやすい一枚です。
一方で、アコースティックジャズの革新性を重視する人には『Now He Sings, Now He Sobs』、代表曲の親しみやすさを求める人には『Light as a Feather』、緻密で迫力のあるフュージョンを求める人には『Romantic Warrior』が有力になります。
静かなデュオなら『Crystal Silence』、ラテン色と壮大な作曲なら『My Spanish Heart』、現代的なカルテットの熱量なら『Three Quartets』、ソロピアノの簡潔な美しさなら『Children’s Songs』というように、聴きたい魅力を一つ決めれば候補は自然に絞れます。
他人の評価だけで一枚を確定するのではなく、性格の異なる作品を二枚か三枚聴き比べ、繰り返し再生したくなった作品を自分の最高傑作として選ぶことが、変化に富んだチック・コリアの音楽と長く付き合う最良の方法です。



